第5回高等学校韓国語教育セミナーとJAKEHS福島研修の報告

 

日時  2007113日(土) 13:0017:30

    2007114日(日)  9:0012:30

会場  コラッセふくしま 多目的ホールA

参加者 45名(高等学校教員26名、大学教員1名、市民講座教員ほか18名)

主催  駐日大韓民国大使館 韓国文化院

    高等学校韓国朝鮮語教育ネットワーク(JAKEHS

JAKEHS: Japan Association for Korean-language Education at High Schoolsの略)

後援  福島県教育委員会、(財)福島県国際交流協会、(財)国際文化フォーラム

協力  NPO法人ふくかんねっと

 

日程

113日(土) 第5回高等学校韓国語教育セミナー〉

1215〜    受付

1300     開会

13001315 主催者挨拶 韓国文化院 院長 姜基洪

13151330 セッションのテーマについて

          神奈川県立横浜翠嵐高等学校定時制 遠藤正承

13301445 セッション1 

        発題「コミュニケーション能力指標に触れて授業がどう変わったか」

        白頭学院建国高等学校 康龍子

15001615 セッション2

          発題「捨てる紙あれば 拾う神あり 定時制のハングル」

         大阪府立佐野工業高等学校・佐野工科高等学校定時制 左美和子

16301730 セッション3

         報告「福島における韓国語教育とふくかんねっとの活動」

         福島県教育委員会教育長 野地陽一

         NPО法人ふくかんねっと理事長 鄭玄実

11月4日(日) 高等学校韓国朝鮮語教育ネットワーク福島研修〉

9001000  セッション4

         発題「文字もコミュニケーションの中で使いながら」

         立教新座高等学校、外語ビジネス専門学校、東京外国語大学ほか 長渡陽一

 10001115  セッション5 

          総合討論、授業報告

 11301230  セッション6

          ブロック報告、JAKEHS今後の課題

 

  終了後行事

13001430  ふくかんハッピー民話

          民話 内池和子(日本民話の会)  解説 鄭玄実

 

113日(土) 第5回高等学校韓国語教育セミナー

主催者挨拶: 韓国文化院長 姜基洪

全国各地から来られた先生方、こんにちは。

私は1カ月前に院長として赴任したばかりです。来日前までは文化観光部で仕事をしていました。韓国文化院は文化観光部に属しますが、日本では大使館の機関となるため、文化観光部に在籍したままで外交官として来日することはできません。なぜなら、大使館は外交通商部のもとにあるからです。そのため、外交官として来日するため一時的に外交通商部へ移ることになります。しかし、仕事の内容はそのまま文化観光部の仕事をすることになります。

それはそうと、今回、この美しい都市福島でこのようなセミナーを開催できることをうれしく思います。福島県には5年ほど前に来たことがありますが、福島市は初めてです。福島県は東京と神奈川、そして千葉県を合わせたほどのとても広い県だと聞きました。

この場にお集まりになっているみなさんが一生懸命韓国語を教えているのはほんとうにうれしい限りです。来日1ヵ月しかたっていませんが、私がいちばん力を入れ大事な仕事であると考えているのが韓国語の普及です。海外への韓国語普及事業は文化観光部の担当業務です。日本でも韓国語能力検定試験が行われていますが、これのみは教育人的資源部が担当しています。

ことばというものは文字がなくては消えてしまいます。アイヌ語の記事を読みました。ことばは普及しないと消えてしまいます。ことばの普及は大事なことと思います。またことばがわかるとその国の文化を理解することができます。

私は36歳くらいまで日本語はわかりませんでした。しかし、あるきっかけで勉強し始めました。それから日本の文化に親しみ、また7年前には韓国文化院の文化官としても仕事をしましたし、今は院長として赴任することになりました。それは日本語を勉強した成果であるとも思います。

この場には、日本全国から韓国語を教えている皆さんが集まっています。韓国語を教えている高校は300校ほどあると聞いていますが、皆さんのような方々のお力で2倍以上になるよう願っています。私は韓国語を普及する立場の文化院長として、皆さんが韓国語を教える上で何か相談したいことがあればいつでも連絡してくださるよう望みます。相談にものりますし、支援したいとも思います。

皆さんお忙しい中このセミナーに集まられたわけですが、集まられた方々が有意義な話し合いをして、韓国語を教えるためによりよいものを持ち帰っていってください。

また、今後は韓国語を教えるだけではなく、是非たくさんの方々が直接韓国に行くように、どんどんお誘いください。最近は韓国のウォン高日本の円安の影響で、史上初めて訪日韓国人が訪韓日本人を超える見込みですが、本当の交流、本当の相互理解というものは、どちらかが一方的でなくお互い積極的に往来しながら芽生えてくるものです。そのためにも、もっともっとたくさんの方々に韓国に行っていただきたいと思います。

最後になりますが、わざわざこの場にお越しいただき、このセミナーを支えてくださっている国際文化フォーラムの田所理事をはじめ、関係者の皆様方に感謝の意を表します。

 

セミナーのテーマについて:神奈川県立横浜翠嵐高等学校定時制 遠藤正承

「韓国語授業において捨てるもの、拾うもの」というとき、何を思い浮かべるか。ある人は単語、文法事項、挨拶ことば、音変化等々を思い浮かべる。

 「コミュニケーション指標」に基づいて年間授業構成を考えるとき、自己紹介、趣味、食べ物、韓国の芸能人は拾うが、学校生活の話題、家族の話題は捨てるという人もいる。

 また、全く別の角度から考えて、教師主体の授業を捨て、生徒主体の授業にすべきだ、教師の声をなるべく捨て、生徒が声を出せる授業にすべきだという人もいる。被差別の側により添えることができる授業、達成感の持てる授業を作るべきだという人もいる。

 「捨てるもの、拾うもの」というテーマはかなり刺激的、挑戦的な問題の立て方かもしれない。「これこれに重点を置く」というように考えてきたが、「捨てる」とはかなり思い切ったことを、と思われるかもしれない。しかし、「捨てる、拾う」というテーマを立てた趣旨は学習項目を立てるにしても、より意識化したい、意識化する契機にしてはどうかということにある。意識化した上で年間計画をどのように立てるか、生徒の効果的な学習をどのように促していくのかについて考えていきたい。たくさんの項目を扱えば扱えるほどよいことだということにはならないであろう。参加者の積極的な意見交換を願いたい。

 「福島における韓国語教育とふくかんねっとの活動」に注目したい。ふくかんねっとの精力的な活動が下支えになって福島県では現在2校で韓国語授業が行なわれている。今回はのちほど教育長からも挨拶報告をいただくが、これはとても画期的なことと考える。

 ふくかんねっとでは「ふくかんキムチ」を作っていると聞く。キムチといっても地方、家庭によって味は異なる。「ふくかんキムチ」もきっと独特のよい味を出していることと思う。授業において単に「キムチは辛い」ではなく、キムチを通して韓国の文化や生活に注目させたい。

 セミナーを前に鄭玄実さんの『民話で知る韓国』を読み返してみた。ここには民話がたくさん紹介されているばかりではなく、日韓のちょっとした文化的な差異も載っている。「チョンケグリ」と「あまのじゃく」、韓国では引越し祝いにティシュを贈る習慣など、授業に使えそうな文化的話題もたくさん紹介している。日本語母語話者にとっては意外な、このような話題も授業を豊富化するために拾っていきたい。

 

セッション1:コミュニケーション能力指標に触れて授業がどう変わったか

司会:山下誠(神奈川県立鶴見総合高等学校)

発題:康龍子(白頭学院建国高等学校)

 

初期の頃から『好きやねんハングル』作成にかかわってきた。今年5月から「学習のめやす」のメンバーに加わったことにより、授業がどう変わったのかについて報告したい。対象は中学校1年、初級、1週間に3単位の授業である。勤務校は学校教育法「1条校」であるとともに「民族学校」である。「韓国語」とは言わず「国語」と呼んでいる。

 「学習のめやす」(以下「めやす」と略)を最初見たとき何だろうと思った。

 「めやす」は、実践的コミュニケーション能力をいかに身につけるかに主眼を置いている。コミュニケーション能力指標(以下「指標」と略)とは、高校生の関心や発達年齢にあった内容ごとに、コミュニケーション能力の到達目標をレベル別に示している。言語領域と文化領域のふたつから構成されている。文化領域は総合的コミュニケーション能力を高めるために必要なものである。

 「めやす」は教育の標準化をめざしているのではなく、教材開発、教師研修の内容を検討する際に、教育目標や内容、方法について教師が共通に参照できる枠組み、あくまでも広く議論を募るための「試行版」であり、試行錯誤を繰り返しながらよりよいものにしていくことが必要である。

 「めやす」を使っての授業の組み立て方で主眼を置いているのは、1年間の授業が終了する時点で生徒がどのような力を身につけているべきか、そして単位時間の達成目標の明確化である。

 組み立て方の手順であるが、@目標設定、クラスの状況、授業回数等を考慮して年間指導計画をたて、A「指標」を達成するための学習活動を考え、B学習活動に応じた表現、語彙、文法項目を考えながら、C単元案、授業案をたてることになる。この中で「捨てるもの拾うもの」が出てくる。

 『好きやねんハングル』は、まず自己紹介、買い物、ホームステイ等の場面設定を考え、次にそれらに沿って文法、語彙を選んで作っていった。内容が重たくならないように1課につき3つから4つのポイントを入れた文章、会話作りからはじめた。文法シラバスとよく言われるが、最終的にはコミュニケーション能力を重視している。

 「指標」の意味についてのとらえ方を述べたい。去年の研修会ではじめて「指標」に触れたとき、「自分はもうやっている」という思いから必要性を感じなかった。しかし、なぜこれを作ったのかに関心があったので、「めやす」メンバーになった。

 高等学校の韓国朝鮮語の未来のために共通に参照できる枠組みがずっと必要だと思っていたこともあり、「あ、これは!」と感じた。「指標」ベースに年間指導計画、単元案、授業案を作ることによって、今までやってきたことへの整理につながった。自分のやり方を再確認しつつ、「生徒にどんな力をつけてほしいか、生徒がどんな力を身につけたいと思っているのか、そのために教師は何をすべきか」について具体的に意識化することができた。実践的コミュニケーション能力をいかに身につけさせるかが結論となった。また、これは「試行版」なので教員たちが今後、試行錯誤を繰り返しながらよりよいものにしていけばよいと考える。

 私の中で「捨てるもの拾うもの」とは何か。変化したものとは何か。それは意識改革である。

 メンバーになる前は、文字も文法も語彙もコミュニケーション能力を身につける上で必要なものと考えていた。もちろんこれらすべてが必要であるが、文字が読めても、語彙がわかってもコミュニケーションをとれなければ意味がない。ここでいうコミュニケーションとは会話だけではない。インターネットを見たり、手紙を読んだり、本を読んだり、自分が話したりというようにあらゆる情報交換がコミュニケーションである。文字、文法、語彙すべてのことが必要だが、それがどうコミュニケーションにつながっていくのか常に意識するようになった。これが意識改革だった。毎時間の単元達成目標を考えたとき、今までは「今日はちょっと文法をやろうか」ということもあったが、45分の授業の中でコミュニケーションの場をできるだけたくさん持とうというように意識が変わった。

 2種類配布した指導計画のうち、B4の方は初期に作成したもので、「めやす」メンバーに大いに批判されたものである。その批判を受け作り直したのがA3のものである。やっていることは変わっていないが、「生徒は何が話せるようになるのか、なったのか」を考えるようになった。B4には「漢語系数詞を学ぶ」とあるが、「漢語系数詞を学んでどうしたいのか」というのが「指標」だと考えた。「教科書のページ数や問題番号などが理解できる」とすればとても明確になってくる。「 」ができても、「 쪽이에요.」、「 페이지예요.」ということばが伝わらないとコミュニケーションにはならない。もう一つの例として、「過去形ができるようになる」のではなく、「昨日のことが言えるようになる」と変わっていった。

 建国では、듣기,읽기,말하기の力が十分ついた後、毎時間の小テストを活用して쓰기の力もきっちり押さえる。すなわち4技能すべてを重視するということは変わらないが、意識的に말하기の時間を多くとることで、生徒の興味関心が増し、「授業が楽しい」、「もう終わり?早っ」という声を発する生徒が以前より多くなった。よい方向に回転している。

 私自身授業をできるだけ韓国語で行なうようになった。そのことにより生徒の듣기に対する注意力が増したように思う。全然習ったことのない単語でも誰かが私の動作や状況を見ていて推測できるようになってきている。

 「めやす」と『好きやねんハングル』に関わることにより、授業が以前よりももっと楽しくなった。生徒とのやりとりが楽しく、生徒の変化がより見えるようになったからである。

 テストで自己紹介を書かせたものを今、廻している。「指標」では文字を学ぶことより듣기,말하기に重点を置いているが、建国ではこの先ずっと韓国語を学ぶ関係で文字は絶対不可欠に必要である。全然書けていないのは学習障害の子のものである。ただその子も말하기はできる。

 

 こののち康龍子氏は、小テストノート(「私のノート」)、猫ちゃんマーク、おこげ飴等を使った授業のようすについて紹介した。「ふつう듣기,말하기はできても쓰기ができない子が多いが、そうではない」こと、小テストを生徒同士交換させることで읽기にもなっていること等示唆に富むものであった。さらに参加者とともに実際の授業のデモンストレーションを行った。

 

Q 体で覚える韓国語、動きのある授業になっていて『好きやねんハングル』の中身をさらに伸ばし、しっかり定着させていく授業はすごい。

Q 1年間の全体目標、各学期の目標と単元目標を立てて、さらに毎回の授業の目標を考えないといけないのか?

A 毎回教材を作ることの苦しさから脱却したいと考えて作ったのが「好きハン」だった。これを作れば教材については毎回考えなくてもよくなる。次にこれをどうやって使い、何を残すのかを考えるようになった。この年間授業案の資料を作るのにはものすごい時間がかかっているが、逆にこれを作ったことによりもっと楽しい授業ができるようになった。

Q 毎回の教材は決まっているので、プリント等を考えて渡せばいいと考えていた。プリントを渡したとき生徒たちがおもしろいと思っているプリント作りを心がけている。

A このクラスは3単位3年間ということもあっていろいろなことができるクラスである。T高校(*以前教えていた高校)の2単位の授業であるとまた違うかもしれない。建国では義務、必修の教科であるが、だからこそ特に楽しくしなければいけないと考えた。年間の授業を楽しくすることしか考えなかった。「え、もう授業が終わり?」という声を聞くのがうれしい。「まだ終わらへんの?」という声を聞くのがいちばん嫌である。

Q 中学1年の生徒ということだが、我々が教えている生徒と土台が違うのでは?生徒たちの韓国語学習は、一切韓国語ができないところから始まっているのか?

A その通り。4月の段階では何も知らない。アヤオヨも書けない。

  しかし、同じような授業を高校生に行っても通じない。中学生はほかの教科はできないが韓国語はできるということもある。また「指標」に照らして考えるとき、時間数が少ないという条件での場合は「捨てる」部分がもっと多くなるであろう。各現場によって異なる。

 その人の持つことばの力でやりとりも限定される。コミュニケーションを重視すると時間が取られて書く時間が取れない。どこかで凸凹ができる。今は話すことに力を入れている。書くことはあきらめている。

A 高1初級クラスの生徒にも同じことをやっているが、現中1のようにはできていない。中学(日本の公立中学卒)時代に勉強をあきらめた生徒も半分程いて、同じペースではやれない。けれども韓国語ならできるという気持ちをもってもらえるよう楽しい授業をめざしている。高校生だと書くことを捨てるときもある。

Q 韓国語と英語の習得能力は比例するのか?

A 学力の高い子は比例するが、中くらいの子は比例しないと思う。英語は嫌いだが、韓国語はおもしろいから勉強するという子もいる。

A それと教室内外の活動、他教科との連携ということで、韓国語能力試験対策の授業も行っている。

Q 年間指導計画例、テスト、教える側の情熱もあって、生徒がゲーム感覚で楽しく学べている。飴でつられる年齢に合わせていて、とても参考になる発表であった。ところでカン・ヨンジャ氏の発音がとても素晴らしかったが、発音練習はどれくらいさせているのか。

A 私自身も在日として発音を獲得した側なので、韓国語の発音は難しくないと生徒に説明し、発音の仕方を繰り返し教える。発音練習をする時は全員立たせて、できるまで座らせない。

Q 学習する対象者によっても違うと思う。同じ中学生でも、別の中学だと違うのか。

A はい。違うと思う。

司会 条件や環境の違いがあるとしても、自分の所でも使える普遍的なものを見つけ出すことができるのではないか。カン・ヨンジャ氏の発表の中で、捨てるものは何か。

Q 質問が2つある。@発表の中であった「単元案の小テストノート」についてもう少し詳しく、A定着させるための工夫ではどんなことを?

A @小テストノートは、毎回小テストを行うためのノートで1人1人の個人用ノートである。毎回1ページを使い、罫線の2行に渡ってテストの答えを書かせている。問題は5つで、12点で10点満点方式。間違ったところは下の空いたスペースに5回書かせ、その日のうちに提出させる(生徒個人のノートだけれど「私・教員のノート」だと言っている)。満点の生徒には私のオリジナルの「ネコちゃんマーク」と花◎を書いてあげているが、生徒はとてもこのマークを気に入っていて、このマーク欲しさに(10個集めるとおこげ飴1個がもれなくもらえる/おやつは禁止されているので他の生徒には秘密です)テストも頑張っているぐらいだ。A宿題を毎回出している。1520分程度でできるものだが、できていない子は毎回放課後呼び出して残してやらせている。

司会 学習活動が重要で、授業の中で達成させるものがある。自分の授業でも今年はとても成果が上がっている。

A 自分の中の意識の変化が大きい。授業の中で、話させる・聞かせる時間の量が大幅に増加した。生徒たち自身が主体となる授業、自分たちが楽しい授業。楽しく話して、その後書かせる。授業中쓰기の時間がない場合もあるが、宿題には必ず、쓰기 시험 공부(小テストのための勉強)を出しているので、쓰기の勉強をやるしかないのです。

Q 話すことだけでは知識は定着しない。쓰기も重要。インプットとアウトプットの割合は?

A インプットしないとアウトプットもできない。特に韓国語能力試験には作文が30点分あるので쓰기は不可欠。「インプットとしたものは全てアウトプットできる」というのが目標です。

Q 先日M氏の公開授業があり、授業の半分以上を韓国語で行っていたことに感心した。「好きハン」の場合、「文字と発音」編ではどのようなコミュニケーション活動が可能か?

A 「주세요」「있어요」などを組み合わせてペアワークを取り入れ、文字だけの単調な学習にならないよう工夫をしている。文字に磁石をつけてかわいく作ったカードなどを利用し、文字を習う段階でも楽しく学習できるよう工夫している。何故、世宗王がハングルを作ったのかという話もしている。

司会 授業の目標、学習活動をどう意識化するかということが要となる。

 

セッション2:捨てる紙あれば 拾う神あり 定時制のハングル

司会:武井一(東京都立日比谷高等学校ほか)

発題:左美和子(大阪府立佐野工業・佐野工科高等学校定時制) 

3年前に学校が再編され、工業高校から工科高校に変わった。もともと工業高校に普通科が併設されていたが、定時制だけ総合学科ということになった。それにともなって韓国朝鮮語の授業も減った。以前、普通科では1、2、3年生と週2時間の授業以外にスクーリングという時間があり、併せて4単位を3年間で計12単位を学ぶことができた。また工業科の生徒は1年で2単位、2年で2単位と少なかったが、総合学科に変わり、1年生では週2時間、外国語を学ぶことになった。この外国語は「英語」と「韓国朝鮮語入門」からの必修選択になっている。2、3年生は必修ではないが「総合的な学習の時間」または「自由選択科目」、「課題研究」として実施している。学習者の割合は1年生では5割強で、英語より選択者が多い。また2、3年生では1年間で2単位から4単位を学習する。そのクラスの生徒数は10名から25名程度になっている。1年生では英語を選んで、2年生で初めて韓国朝鮮語を始める生徒も一緒に学習するので、生徒間のレベルの差が大きく苦労している。

  韓国朝鮮語を学ぶ理由は、「英語が嫌いだから!!」という消極的なものが最も多い。それは、中学校で勉強について行けず、英語に苦手意識を持っている生徒が多いからである。またもう1つは、韓国朝鮮語は高校から始めるので「一から学べる」、「みんな同じスタートラインに立って始められる」など、韓国朝鮮語は劣等感を感じることなく始められることも大きな選択理由であるようだ。

 1年間で何を学ぶかと言えば、まず「ハングルが読める」ということであるが、何も見ずハングルが読めるという生徒は多くない。何の資料もなく、「ハングルが書ける」、「基本語彙が言える」というのは難しい。「基本語彙をハングルで書ける」ということになるとさらに難しい。「簡単なあいさつができる」ということでは、「アンニョンハセヨ」、「カムサハムニダ」などは10人中10人が言えるが、「アンニョンイガセヨ」になると難しく、使うシチュエーションが少ないからか「ミアナムニダ」を言える生徒はたいへん少ない。

 韓国語朝鮮語を学ぶ目的(=拾うもの)としては、第1に「自尊心の育成」がある。韓国語は日本語に似ていて覚えやすく、まじめに学習に取り組んでいる生徒は、自分はやればできるんだという自信を持つことができる。また、韓国朝鮮語学習はそれ自体が異文化理解につながり、姉妹校の韓国・大田工業高校との交流を通じての国際理解にもつながっている。また、在日韓国朝鮮人生徒にとっては自分を考えるきっかけにもなっている。残念ではあるが「語学そのものを純粋に学ぶ」ということはほとんど目的になっていない。

 韓国朝鮮語学習の集大成として「韓国修学旅行」がある。定時制の生徒たちにとって旅行代金はかなり負担になるようで、修学旅行への参加者は全体の3分の1から4分の1程度である。修学旅行が韓国語学習の動機付けになってほしいと思っている。姉妹校とは楽しく交流を続けている。

 どのようにして学ぶかというと、教科書(スキハン)フラッシュカード、絵カード、ワークシート、ビデオなどさまざまなものを利用している。フラッシュカード・絵カードは、これを見ただけで単語を読むのは難しい生徒もいるので、カタカナの読み方のカードも準備し、その中から正解を選ばせるようにしたり、クイズ形式にしたりして工夫している。また、個人別のファイルに授業のワークシートをファイリングさせ、毎回授業の最後に回収し、点検のハンコを押して次回返すようにしている。書いて目に見える物が残ることは生徒にとっては達成感があるようだ。検印をもらうことで意欲を感じる生徒もいる。歌も毎回聞かせて覚えさせるようにしている。韓国語の歌詞カードをファイルに貼っておいて、番号を付け、ハングルの表を見ながら、歌詞を読むように努力させている。ビデオ・映画は、そのまま上映するのではなく、さまざまな作品から同じ表現を集めたものを利用している。たとえば「アンニョンハセヨ」をいろいろなドラマや映画の様々な場面から集めたものを使っているが、生徒は興味を持って覚えてくれるようだ。ペアワークは、友人以外とはコミュニケーションのとれない生徒が多く、なかなか難しい。

 これからの課題として、カタカナ書きでもいいから、会話中心の授業ができないかといつも考えているが難しい。また、発達障害を念頭にいれた教授法を取り入れていくことも重要な課題となっている。これは文部科学省の支援モデル事業の指定を受けており、今後研究してゆきたい。

 「捨てるもの、拾うもの」ということであるが、授業で扱えないことが多く「捨てている」ことも多い反面、出会えば韓国朝鮮語で声をかけてくるなど韓国朝鮮語学習にのめり込んでくる生徒もおり、そのような生徒は韓国朝鮮語学習で自信をもって卒業していく。このようなことが「拾うこと」ではないかと感じている。

 

Q:生徒の数や質の変化はどうか。

A:数は少しずつ減少している。昔より自分の進路を決められない生徒が増えているようだ。

 

感想(E):定時制で勤務していて、共通なことが多いように感じた。質問しても答えが返ってこないことが多い。コミュニケーションをとるのが苦手な子が多くなっている。韓国語の授業は自由選択科目で行っているので、自ら選んで来ている生徒が多く比較的大きな声を出してくれる。欠席がちだが授業には出てくる生徒がいる。しかし、学習内容の定着が難しく、特に文字の定着は難しい。

 

Q:評価はどのように行っているか。

A:点数をとるのが難しい生徒にも、課題を提出することで単位を取れるように配慮している。

 

Q:異文化理解とか国際理解とか、文部科学省の喜びそうなものとは別に、どうやったら韓国語の楽しさを理解してもらえるとか、高校での韓国語をやっていることの意味を感じてもらえるとか、ぜひこれだけはつかんで欲しいという、その最低限のボトムラインは何なのだろうか。もっと現実的な目標があってもいいのではないか。

A:10人で1人か2人、ハングルを書けて読めるようになる、そしてそのことで自信を持ち劣等感を克服してほしいと考えているが。

 

Q:歌の歌詞に番号を付けて説明するとか、テストでシチュエーションを設定して答えさせるとか、文字が十分に読めない生徒を対象とした工夫が素晴らしいと感じた。歌としては、どのようなものがいいか。

A:生徒の知っているもので、ゆっくりしたものが良いけれどあまり無いので、日本の歌のカバーであるとか、みんな知っているBoAとか、ことしはDJオズマとか。

 

Q:全日制でも大変な学校はある。言葉以外で文化体験をしてみようという取り組みをしているか。

A:2、3年で調理実習とか、ビデオを見せたり、韓国の地理なども取り入れている

意見(Y):生徒に対する学校の引力が弱いと言うところでは自分の学校(全日制総合学科)と共通する。ついて言わそうとしてもなかなか言わないが、質問を個々の生徒に投げかけるとかしてやれば授業に乗ってくる。このようなコミュニケーションの場を作ってやるのが重要ではないか。

意見(N):カタカナでも会話は可能だが、発音は捨てないといけない。またハングルへの移行が難しくなる。口と耳だけの方が良いのではないか。

A:最後に拾うものという事では、ハングルが読めて書けるようになってほしい。そして人の知らないことができるということで自信を持って欲しい。

 

セッション3:福島における韓国語教育とふくかんねっとの活動

  福島県教育委員会教育長 野地陽一、ふくかんねっと理事長 鄭玄実

 

福島県の韓国語教育について: 野地陽一教育長

あさか開成高校と福島北高校の2校で韓国語授業を行なっている。2校合計今年は約50名の生徒が韓国語を学んでいる。高校90校中の2校である。英語以外の外国語、すなわちフランス語、スペイン語、中国語、韓国語は合わせて約500名が学んでいる。

 外国に修学旅行に出かけた学校11校中5校が韓国であった。残念ながら訪問した先で韓国の高校生と交流するところまではできていない。

 先日、福島県知事が韓国を訪問した。福島・ソウル間の国際便利用促進のために韓国へ行った。韓国から福島県に教育旅行で来るということはない。相互交流をいかにさかんにするかが課題である。

福島県にはほかユニークな取り組みを行っている高校がある。太平洋に面した富岡町にある富岡高校である。富岡高校はスポーツを通じて国際的にも通用する人材を育成するため日本サッカー協会等と連携し開校した。

鄭玄実 7年前に福島に来たがそのとき高校で韓国語を教える学校はなかった。今後福島で韓国語を取り入れられる可能性、展望を教えていただきたい。

野地教育長 高校には単位制高校があって、本人の希望に沿ってカリキュラムを選ばせることをやっている。単位制の中で韓国語授業を設けることに取り組むことが早道だと考える。人材不足の中で、ふくかんねっとからサポートがいただけることもポイントである。

鄭玄実 先日矢吹町の光南高校からふくかんねっとに依頼があった。矢吹町には韓国からゴルフ客がたくさん来る。韓国に対する理解、意識を高めなくてはいけないということで、高校で韓国語を教える必要があるという考えにまで至った。教える先生、テキスト、カリキュラムについて相談があった。ゴルフ客が毎年7万人くらい来る、しかも毎年5割ずつ増えている状況の中で各旅館等も韓国からの客に対する対応を考えなくてはならなくなってきている。福島の高校の中で韓国語を教える必要が高まっている。

野地教育長 実は福島県から韓国に行く日本人より、韓国から福島県にゴルフや温泉に来る韓国人の方が多い。今話に出た矢吹町はじめ県内には韓国企業、韓国系企業が所有するゴルフ場がかなりの数あり、韓国からたくさんの客が来ている。一般県民にも韓国語の教育需要が高まっている。旅館・ホテルでも従業員に韓国語を学ばせるという状況が出てきている。

 

ふくかんねっとの活動について: 鄭玄実理事長

 今年、韓国の安城市から選ばれた青少年20人が福島を訪ねてきた。そのときふくかんねっとがコーディネーターをし、福島の桜の聖母高校、郡山のあさか開成高校の生徒と交流をした。この後、あさか開成高校の生徒6名が安城の高校へ行きホームステイを行った。顔をあわせながらの交流をもっと積極的にすべきだと思っている。

  私が福島に来た7年前、福島大学には韓国語科はないし、韓国語という科目もない、非常勤もいない状況だった。公民館の市民講座やいろいろなスクールにも韓国語がなかった。韓国食材を買うことも困難だった。こんなに韓国と遠い県があるのかと思った。

  それから何とか韓国語講座をと考えて開いたら、2クラス集まった。「韓流ブーム」が起こる前だった。意外と反響が大きかった。韓国語を学びに来た人をネットにしてというところから6年前に「ふくかんねっと」がはじまった。

 その後、集まった人たちが国際交流のイベントに参加するようになった。ふくかんねっとでもっとも力を入れているのが韓国語講座である。単なる韓国語講座ではなく、学ぶ人が集まって仲間意識を高める、輪がどんどんひろがっていくことが大事だと考えている。

  しかし、今難関にぶつかっている。1つは韓国語を教える先生の問題である。ふくかんねっとから2名の先生が育ち、現在2つの高校で韓国語を教え活躍している。韓国に夏休み、春休み出かけて集中講座を受けたり、韓国の大学院で学ぶ会員もいる。現在こどもクラスも含め5人の先生がふくかんねっとで韓国語を教えている。

しかし福島で韓国語を教えるのはどうして難しいのか。ひとつは人材不足である。福島大学にいる韓国からの留学生6名の中に韓国語を教えてくれそうな女子学生が1人いたが、今年4年生になり韓国に帰ってしまうことになった。そのほか福島に暮らしている韓国人はかなりいるが、主婦として家庭の中に入り、名前も変わっているので捜し出すのが大変である。もし捜し出せても、日本語が乏しい。韓国人であれば誰でも韓国語を教えることができるということではない。どうしたら人材育成できるのかが問題である。

もう一つは今年春から韓国語講座に集まる人が激減したことである。ある学院でテレビ、新聞、雑誌を使って募集したが4人にも至らなかった。どうすれば韓国語を学ぶ人を増やし、韓国との交流、活動を支えていくかということであるが、常に福島で韓国の風を吹かせ、韓国に対する興味を引き起こすことが効果的であると考える。その中でもっとも手っ取り早いのが料理講座である。料理から韓国文化、韓国人に関心を広げ、異なる文化を体験することを通して韓国語に興味を持ってもらうことがもっともふさわしい。

 数が多くなればよいとは考えないが、毎週集まっているみなさんにもっと韓国のことを知ってもらったり、韓国の文化に触れる機会をもっと持ち、仲間同士がつながって韓国に対する興味を高めることに力を注いでいきたい。

 ふくかんねっとを今後どうやって存続させるのかも深刻な問題である。誰かが常駐する態勢を作っていかないと、県や市等から送られてくる膨大な資料を処理できない。ボランティアという考え方を徹底しないといけない。運営費もかかる。深刻な状況を乗り越えるためにさまざまな事業を行っている。その一つがキムチ事業である。今回韓国の大学生19人によるインターンシップ事業も試験的に行ってみた。旅館、事業所、会社でインターンシップをしながら福島のさまざまなイベントに参加し交流することで活気をもたらした。

野地教育長 ふくかんねっとがかかえている問題はNPO法人が共通にかかえている問題である。ふくかんねっとは、鄭玄実さんの人柄とバイタリティーとキムチのおいしさが知られている。インターンシップ受け入れについても、これまでの鄭玄実さんの活動のおかげであり、それを評価する人がいたからできたのだと思う。

鄭玄実 ふくかんねっとは会員15人くらいからはじまり、今200人になった。この5年間、さまざまなスタッフがボランティアとして意欲的に参加した。主婦がたくさん集まり支えている。

感想 私は、今日の天気は、何時に起きましたか、食事をしましたか、寒いですかということから授業を始めている。50分授業のうち、生徒に最低3回は答えるようにさせている。

感想 いかに授業で私に興味を引き付けるのかが課題。寝ている子がいれば起こしながら授業を行っている。韓国からインターンシップの学生が来たとき生徒ははとても目を輝かせて授業に臨んだ。生徒は何かが通じるととてもうれしさを感じる。韓国、韓国人に対する興味を引き出すことが大切だと思う。生徒が少しでも何かしゃべれればいいなという気持ちで行っている。

 

11月4日(日) 高等学校韓国朝鮮語教育ネットワーク福島研修

セッション4:文字もコミュニケーションの中で使いながら

司会: 西澤俊幸(長野県塩尻志学館高等学校)

発題: 長渡陽一(立教新座高等学校、外語ビジネス専門学校、東京外国語大学ほか)

資料:1. 文字もコミュニケーションの中で使いながら、2. 日本人の外国語コミュニケーション能力向上のために:会話を文字から解き放つ、3. 文字は教えるな:知的遊戯と発見の力学

 

1. 文字もコミュニケーションの中で使いながら

【なぜ先に文字を教えるのか】 文字を通して韓国語をインプットしようとする意図を持っているから文字を教えるのである。外国語学習の王道は本来、音(耳)から覚えることにある。新出単語の提示のための文字使用を控えるべきだ。立教新座高等学校の朝鮮語の授業では、初めの10時間(週1回、連続2コマ×5回)、文字を提示しない。

【文字は表語=単語を表すもの】 表音文字といわれる文字も、発音どおりの音を表記しているわけではなく、単語を表しているので、文字はすべて表語文字ともいうべきである。

【コミュニケーションの定義】 実際に伝えたいことを話(口頭)または文字を通して行うことがコミュニケーションであり、ドリルは、伝えたい内容ではないから、コミュニケーションではない。

 

Q1: 立教高校では初めの10時間文字を使わないで授業するというが、具体的にはどう教えるのか。

A1: 日本語ったり解説したり、絵カードを使いながら안녕하세요? 안녕하세요? 이름이 뭣입니까? 나가토입니다. 이거 뭐에요? 책이에요. などのやりりを「どこに行きますか」「何をしましたか」などを尋ねる。

Q2: 책이에요. 책상예요. など받침をどうえるのか11時間以降の授業は?

A2:文字を教えないから、받침はどうこうという問題自体がない。文字を導入するときは、1時間ですべての子音字と母音字を提示する。最初は、どこに住んでいるか、場所、名前など日本語をハングルで書かせる。

Q2-1: 1回で覚えるのは、定時制の生徒には無理。

A2-1: 初めの1時間ですべて提示するが、その後もくり返し練習する。立教でも習得には時間がかかる。

Q2-2: 받침や複合母音はどう教えるのか。

A2-2: 1回目では、生徒の中に、例えばワタナベ姓がいれば、を入れるが、いなければ提示しない。その後、そのような単語を書く機会があれば、その都度補助する。

Q3: 文字の提示前は、生徒に宿題や課題は出すのか。

A3: 宿題は出さない。ときには、「アンニョンハセヨ」を書いて来いなど、文字に慣れさせることはある。

Q4: 例えば、안녕하세요?を文字で教えるのは難しいが、どうやって教えるのか。

A4: その段階では、分解せず、そのまま写させる。理解が深まるように、だんだんと教える。

Q5: 初めの10時間で教える語彙やフレーズはどのようなものか。

A5: テレビを見る、寝る、起きる、食べる、(목욕, 공부, 아르바이트)하다、遊ぶなど、高校生が日常で使う語彙や語句を、絵カードなどを使って教える。점심뭐 먹을 거에요?

Q6: 多くの教師が行っていることを強調した授業方法であり、多くの授業で最初に提示する「話す・聞く」だけ(●●)10時間に延ばす手法だ。それが定着した段階で文字を提示するということだろう。そこまで意識的にやるかどうかだ。一方、生徒は1か月間ずっと文字なしで習うことに耐えられるのだろうか。

A6: 私の場合、週12時限(50分×2)で10時間が限度だ。それ以上はできない。教師の力量、性格、生徒の力量、性格によって異なるだろう。

     読めないから話せないと考えがちだが、そうではない。

     4月からスタートして6月ごろまでには、文字を覚えなくても話せるようになる。

     学習者自らがcommunicateしたい内容で練習すれば、覚えなくても定着する。

     文字を習得するためには、文字によってコミュニケーションすることがだいじ。生徒から文字によって伝えさせ、こちらから文字によって何かを伝える。伝えようとする内容ではない、単語だけによる文字学習は定着しない(セミナー第2セッションの例を参照)。

Q7: 聞いたことのある単語や語彙を文字で覚えるほうが学習効果が高いことは確かだが、要するに、コミュニケーションを目標とすることが重要ということか。

A7: 文字が書かれた紙を生徒に渡すと、みな(それを読もうとして)下を向いてしまう。初めに文字を提示すると、日本語の音に置き換えがち。耳で覚えてから口で発するようにするほうが効果的ということだ。

     初回からハングルを教えてしまったことがある。例えば、市民講座の場合、受講者が文字を書きたがることが多い。学習者のニーズや学習対象によって異なると考えたほうがよい。

     学習書の最初が必ず文字であるから、アラビア語を何度も挑戦している人で、言葉も知らないうちに文字を習うので挫折し続けていた人もいる。

Q8: コミュニケーション能力にとって音がだいじだということに異論はないが、最終的な学習目標としては文字の定着があると思う。また、話せて聞ければ、すっと書けるようになるというが、そうはならない。耳から入る学習と文字の学習の間には厚い壁がある。

A8: 会話と文字は、まったく分けて考えるべきだ。会話ができれば書けるというものではない。また、逆もない。「コミュニケーションの中で文字を」という主張は、文字によってコミュニケーションをしろというものだ。コミュニケーションは音声によるものだけではない。

 

セッション5:総合討論・授業報告

司会:今給黎俊伸(鹿児島県立開陽高等学校定時制)

 

セッション4についての質疑継続

Q:文字の学習に入る時、どのように導入するのか?

A:「」を使う単語にはこんなものがある、という教え方ではなく、この単語はハングルでこう書く、というように教える。

Q:過去形の教え方は?

A:音から教える。「먹었어요」「잤어요」などいくつかのことばを提示する。1年間しかないので文法は説明しない。もっとできそうだな、という場合は説明することもあるが。

Q:到達度はどこまでをねらっているのか。

A:高校では1年しか学習期間がないので、過去(昨日)、現在(今日)、未来(明日)、夏休み、自己紹介などを話したり書いたり(日記)する程度。

Q:日本語話者が判別しにくい音を、最初の10時間が過ぎた時生徒は判別できるようになっているか?

A:生徒それぞれ。区別できる子もいればできない子もいる。10時間過ぎた後の授業の中で少しずつ解説したりするがわからない子もいる。

 

各自が配布したシラバス・授業報告について

H高校:ALTのソンセンニムといっしょにモデル会話をしながら少しずつ会話を増やしていくので、最終的には25分くらいの会話を言えるようになる。自己紹介は必ず最初に入れる。会話だけでなく文字も学習する。文字と会話の時間配分による教育的効果や、ペーパーテストのあり方等、思案中である。

K高校:最初の年度は文字だけで1年が終わった。去年は好きハンすべてを終えることができた。今年は去年に較べて授業が変化した。生徒が興味を持っている内容の表現を練習したところ、授業に活気が出るようになった。たとえば「혈액형이 뭐예요?」をお互い聞きあって文章に書いて発表させた。文字にそこまでこだわらなくてもいいかなという気になってきている。

 

意見交換

−(「学習のめやす」チームより)これからは「コミュニケーション能力指標を使った授業つくり」を検討していく。年間の授業計画、授業例を提示したものを作っていく予定。12月、1月にワークショップなどをして検討していく予定。

40時間なりの授業時間の中で捨てなければいけないものがたくさんある。何かを拾えば何かを捨てなければならない。捨てることを意識化する必要性がある。

−コミュニケーション指標は말하기듣기だけに重点をおいているわけではない。

−高校韓国語授業において、センター入試の準備は捨てているのではないか?

−高校ではどこまで教えなければいけない、という外部圧力がないが、大学の場合はハングル検定何級をとらせるようにせよ、と言われたりする。

−昨年は教科書を順番通り全部終わらせたが、今年は教科書を順番通りにすることを積極的に捨てた。「もっとやりたいことがあるからこれを捨てよう」というように変化した。

−他教科を教える時はセンター試験を意識している。韓国語ではそれがないので個人的には気持ちよく教えられるが、何をどこまで教えるか明確化する必要がある。

−センター試験をめざすような環境にない。社会状況がそうなっている。

−パッチムの発音を自分は捨てている。初級学習者は捨ててもいいのではないか。「옷을」と言えるようになれば、パッチムをあえて練習する必要はないのではないか。

−「よこはま」という言葉から連想させ하마の単語を導入している。また、호떡は日本ではあまり目にする機会が少ないので、捨ててもいい単語なのではないかと思っている。

−会話の中では하나よりもを使うことが多いので、を拾い、하나は捨てた。あとから状況を見て入れることもありうる。「捨てるもの拾うもの」を常に考えながら状況を見ながら教えることが大切。

−学校や生徒の状況によって違う。ここでの議論は普遍的なことを交流するものなのか、それとも個々の学校の状況を交流するものなのか。センター試験を考えないと楽しい授業を心がけることができるが、進学校の場合受講生が増えないことが悩み。英語も韓国語と同じように楽しく教えることができないか、教材研究中。

−発音にこだわる必要があるだろうか。発音は知識として教えはするがさらっとしか教えない。スピーチコンテストに出る場合はそのときにきっちり発音練習する。

−(司会)普遍的な話を出すのは難しい、交流し合う中で考えていきましょう。

−それぞれが無意識的にやっていることを出してもらって意識化していけばいいのではないか。ネイティブとしては、パッチムはきちんと発音指導をしないと書き取りをした場合書けないし、固有数字も하나を教えるべきだと考える。

−相手、状況による。そういう選択肢もある、ということを頭においておくことが大切なのでは?

−コミュニケーションを中心にした授業をやりたいと思い試みたことはあるが失敗し、文字を学習する今の授業スタイルになった。しかし、当時試みた授業は今思えばコミュニケーション中心の授業になっていなかったように思う。生徒が話したい内容でのコミュニケーションを中心にした授業にもう1回挑戦してみようという気になってきた。文字を捨てるとまでは言わないがもう1度考えてみたい。

−コミュニケーションというのは말하기듣기だけをさすのではない。自分は말하기듣기に重点を置いているが、읽기쓰기も大切だと考えている。읽기は学習者の確認作業として必要だと思う。生徒に残したいもの、がすなわち到達度ではないだろうか。

−(司会)意見交換する中で、もう1回自分の授業を振り返るきっかけになったのではないでしょうか?

 

セッション6:ブロック報告、JAKEHSの今後の課題

司会:藤村直哉(大阪府立千里高等学校)

 

 東、西、南の各ブロックより活動報告を行った。

 東ブロックでは東京、神奈川の会員を中心に3ヵ月に1度ずつ定例会を行っている。定例会は授業研究が中心である。ここのところ参加者がやや固定されている。今後どのように活動を活発化させるかが課題である。東では高校教員の構成割合が50%を切った。

 西ブロックでは2〜3ヵ月に1度ずつ授業研究を中心に定例会を行っている。あわせて『好きやねんハングルU』作成に向け準備中である。今後、試行版をもう1度出し、再来年には出版する予定である。当初考えていた『U』と『V』は合わせ1冊とする方向である。現在23課まで作業が進んでいる。

 南ブロックでは定例会を持つことが難しい。12月2日に研修会を予定している。鹿児島ではJAKEHSのメンバー6−7名で「話してみよう韓国語」を運営。また、外国語多様化の指定を受けている。県教委主催の研修もあった。

各ブロックでのモイムのほか、県単位で会合を持っている鹿児島、広島、鳥取、兵庫、大阪、神奈川等の動きも注目することができる。地域単位での動きを充実させていくことも各ブロックでの活動を活発化させる鍵である。

市民講座と高校の授業ではそもそも受講者のモチベーションが異なり、授業形態も違うことから、それぞれの状況に合わせ従来の定例会のほか「高校部会」、「市民講座部会」のようなものを開設してはどうかという意見も出た。

来年の全国研修については、西ブロックで担当することになった。

 全国研修という場のほか、メーリングリストやホームページ掲示板等の情報手段の積極的活用に関する意見も出た。

 

横断幕「第5回高等学校韓国語教育セミナー」「高等学校韓国朝鮮語教育ネットワーク福島研修」は太田剛氏(四国大学文学部書道文化学科准教授)に作成していただきました。ありがとうございました。